名古屋高等裁判所 昭和55年(う)272号 判決
所論は、要するに、本件について被告人を死刑に処した原判決の被告人に対する量刑が重きに過ぎて不当である、というのである。
所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、被告人の性行、経歴、前科をはじめ、本件各犯行に至る経緯並びに本件各犯行の動機、態様等については、原判決が詳細に説示するとおりであり、とくに、本件は、被告人が日建土木を事実上主宰する山根一郎らと共謀し、保険金受取人を日建土木、事故死亡時保険保障限度額を三億円とする生命保険兼傷害保険契約の被保険者である原判示第一ないし第三の各被害者を殺害すること、及び、これら被害者の殺害に成功した場合は事故死を装うなどして保険会社から巨額の保険金を騙取することを企て、該企図を実現しようとして相次いで敢行した被害者北山清に対する殺人予備(原判示第一)、被害者石原学に対する殺人未遂(原判示第二)、被害者尾関博澄に対する殺人及び死体遺棄(原判示第三)の事犯と、右尾関殺害の事実を秘匿して保険会社に巨額の保険金支払いを請求して、これを騙取しようとしたが保険会社からその支払いを拒絶されて保険金の騙取に失敗したという詐欺未遂(原判示第四)の事犯とであつて、該各犯行の動機等がきわめて利己的・利欲的で冷酷・非情であること、原判示第二及び同第三の各犯行は、いずれも同各原判示の暴力団組員らに多額の報酬支払いを約束するなどして、これら暴力団組員をして該各犯行の具体的実行行為を担当させたもので、その手段・方法等はきわめて卑劣かつ巧妙というのほかはないこと、原判示第一の被害者北山清に対する犯行は殺人予備の段階に終わり、また、原判示第二の被害者石原学に対する犯行は、僥倖にも同被害者に対して全治に二か月余を要する左鎖骨骨折等の傷害を負わせたにとどまり、同被害者殺害の結果を招来するに至らなかつたが、原判示第三の被害者尾関博澄は、同原判示の殺害実行担当者らによつて無惨にも絞殺され、あまつさえその死体は荒涼たる草むらに放置・遺棄されるに至つたもので、いわば被告人らが多額の報酬を餌にして雇つた暗殺者らの魔手によつて齢四八歳にしてほとんど一瞬のうちに非業の死をとげた同被害者の無念と痛恨はいうに及ばず、その妻子ら遺族の悲嘆は、とうてい筆舌に尽くしがたいものがあるというべく、被告人らの該犯行は、天人ともに許すべからざる重大悪質なものであるというのほかはないこと、しかも、本件各犯行において被告人の果たした役割が、原判示の共犯者らのうちでも、前記山根一郎とともに、最も主導的かつ中心的であつたと認められること、さらには、本件各犯行が地域住民だけにとどまらず、ひろく一般社会に対してもきわめて深刻な衝撃を与えたものと認められること、その他、被告人が、これまでにも、強姦致傷罪などの刑法事犯による懲役刑の前科四犯を重ねたもので、平素の行状も決して芳しいものではなく、その反社会的・犯罪的性格傾向はきわめて危険かつ強固なものがあると認められることなどを総合考察すると、被告人の本件刑責は、この種殺人事犯等を含む重罪事犯のうちでも、ほとんど他に類例をみないほど重大なものがあるものというべきであつて、当裁判所もまた、原裁判所と同じく、被告人をしてその一命をもつて本件の刑責を償わせる以外に他に方途はないものと認めざるを得ないから、本件について死刑の極刑をもつて臨んだ原判決の被告人に対する量刑はこれを相当として是認するのほかはなく、所論のうち肯認しうる被告人に有利な一切の事情を十分に斟酌・考量しても、原判決の被告人に対する量刑が所論のごとく重きに過ぎて不当なものであるとはとうてい認められない。量刑不当の論旨もまたその理由がない。